「今日はしゃぶしゃぶがいい!」
そんな一言から、我が家の外食はほぼ決まる。最近、娘がすっかりしゃぶしゃぶにハマっているのだ。
もともと私は豚肉が大好物で、鍋でも炒め物でも、何にでも入れたくなるタイプ。一方で、妻は少し事情が違う。豚肉があまり得意ではないのだ。まったく食べられないわけではないが、積極的に選ぶことはない。
だから家での食事は、少し不思議なバランスになる。
例えば豚汁。具材として豚肉はしっかり入っているのに、妻はそれを避けて野菜だけを食べる。野菜炒めでも同じで、肉は私と娘の担当、妻は野菜中心。鍋でも同様で、自然と役割分担のようなものができあがっている。
そんな我が家にとって、しゃぶしゃぶという選択は、実はとても理にかなっている。
なぜなら、「好きなものを好きなように食べられる」からだ。
外食となると、豚カツやかつ丼のように、メインが完全に豚肉の料理は妻には厳しい。しかし、しゃぶしゃぶであれば、牛肉や鶏肉、そして野菜中心の構成にすることで、誰もが満足できる。
しかも最近は、食べ放題スタイルの店が主流だ。
この“自由度の高さ”が、我が家にとっては何よりありがたい。
そして何より、娘の楽しみ方が面白い。
しゃぶしゃぶといえば、ごまだれ派かポン酢派かで好みが分かれるところだが、娘は完全にポン酢一本勝負である。それも、薬味は一切なし。ただひたすらポン酢のみ。
「それが一番おいしい」
と、迷いなく言い切る。
確かに、ポン酢のさっぱりした酸味は、肉の旨味を引き立てる。特にしゃぶしゃぶのように脂が落ちる調理法との相性は抜群だ。
しかし、何も加えないという潔さには、毎回少し驚かされる。ネギももみじおろしもいらない。ただポン酢だけ。それで満足している姿を見ると、「味覚って本当に人それぞれだな」と感じる。
一方で、妻は真逆のスタイルだ。
完全なるごまだれ派。それも、しっかり“たっぷり”つけるタイプである。
肉をくぐらせ、ごまだれにどっぷり浸し、さらにもう一度軽くつける。その動作を見ていると、「それ、ほぼごまだれを食べてない?」と思うこともあるが、本人は至って満足そうだ。
結果として、我が家のテーブルでは、ごまだれの消費量が異常に多い。
店員さんが補充に来る頻度も、他のテーブルより少し高い気がする。
そして私は、その中間あたりを行き来するタイプだ。ポン酢も好きだし、ごまだれも好き。その日の気分で使い分ける。
こうして三者三様のスタイルが共存するのも、しゃぶしゃぶの魅力のひとつだろう。
さて、いよいよ食事のスタートである。
最初の注文は、だいたい決まっている。牛、鶏、豚をそれぞれ2皿ずつ。まずは基本の布陣だ。
そこに加えて、前菜やおつまみをいくつか頼む。今日も5品ほど注文した。こういう“寄り道メニュー”が、食べ放題の楽しさをさらに広げてくれる。
最近は変わり種も多く、例えばチーズ入りのつみれや、梅風味のつみれ、さらにはほうれん草の水餃子など、見ているだけでも楽しいラインナップが並ぶ。
これらをつい「試してみたくなる」のが、食べ放題の怖いところでもある。
気づけば、テーブルは一気ににぎやかになる。
もちろん、野菜も忘れてはいけない。盛り合わせを注文すると、彩り豊かな野菜が並び、見た目にも満足感がある。
それらを鍋に入れ、ただひたすら食べる。
会話は自然と減り、無言の時間が増える。だが、それは決して気まずいものではない。むしろ「食に集中している証拠」だ。
ある程度食べ進めたところで、追加注文に入る。
牛肉、豚肉、そして野菜盛り。さらにマロニーやキノコ類を加え、バランスを整える。ここで少し“ヘルシー志向”を意識するあたりが、我ながら面白い。
さらに、チーズ餅やベジポテといったサイドメニューも追加。
もはや「しゃぶしゃぶ」という枠を超え、完全に“食のテーマパーク”と化している。
私はマロニーが好きで、つい多めに食べてしまう。あの独特の食感と、スープを吸った味わいがたまらない。
妻はキノコ類を中心に、じっくりと楽しむ。シンプルながらも、素材の旨味をしっかり味わっている様子だ。
そして娘はというと――
肉、肉、つみれ、肉、肉、野菜。
圧倒的な肉率である。
ただし、すべてポン酢。ごまだれには一切手を出さない。その徹底ぶりは見事だ。
こうして見ていると、「同じ料理を食べているはずなのに、まったく違う体験をしている」ように感じる。
それぞれの好み、それぞれの食べ方。それが一つの鍋の中で交差する。
しゃぶしゃぶとは、単なる料理ではなく、“スタイル”なのかもしれない。
そして、食べ放題の最大の落とし穴が、最後にやってくる。
「ちょっと食べすぎたかも…」
毎回、ほぼ確実にこの感想にたどり着く。
最初は「今日は控えめにしよう」と思っていても、気づけば皿が積み重なり、満腹を超えた“満腹のその先”に到達してしまう。
それでも、なぜかデザートは別腹だ。
今日も例外ではなく、しっかりとデザートまで楽しんでいた。
帰り道、少し重くなった体を感じながら、「やっぱり食べすぎたな」と思う。
それでも、不思議と後悔はない。
むしろ、「また行きたいな」と思ってしまう。
それが、しゃぶしゃぶの魅力なのだろう。
ポン酢派とごまだれ派。肉好きと野菜好き。それぞれの違いを受け入れながら、同じ時間を共有する。
そんな何気ないひとときが、きっと一番のごちそうなのかもしれない。
